展覧会/イベント

椅子張り職人として、また日本初の家具モデラーとして、現在も第一線で活躍する宮本茂紀さん(1937-)。修復の仕事から海外デザイナーズの家具や乗り物のシートまで幅広く手がける宮本さんは、これまで国内外から大きな信頼を得てきた、日本における椅子作りの第一人者です。本展は、宮本さんが携わってきた多くの名作やオリジナル作品を含む約35点の展示資料とともに、長年の経験と知識、そして確かな技術に裏打ちされた宮本茂紀さんの仕事に迫ります。


カッシーナ、B&B、アルフレックス、梅田正徳、藤江和子、隈研吾、アントニオ・チッテリオ、ザハ・ハディド...。彼らは、宮本茂紀さんがともに椅子の試作開発に携わってきたメーカーやデザイナー、建築家たちです。職人との間を繋ぎ、製品化を支える家具モデラーとして、宮本さんは「やってみなければ、分からない」と開発に挑み、デザイナーらの意向をかたちにしてきました。細部まで妥協せずに追及する、その姿勢にこそ不可能なことを可能にする力が宿るのかもしれません。これは、宮本さんが多くのクリエイターたちから信頼を置かれる所以でもあります。しかし、そんな神業のようなことも、職人としての約65年のキャリアがあってこそ。過去には迎賓館や明治村に残された椅子の修復も行ってきました。宮本さんは経験から得た知識や新旧の技術を椅子作りに活かし、さらに次世代に継承することも怠りません。人一倍の探究心と好奇心で、宮本さんの職人魂は常に先の姿を見据えています。
本展では、宮本さんが携わった数多くの仕事を、モデラーの仕事、修復や自ら手がける椅子開発を含む椅子張り職人の仕事、そして次世代を育てる仕事の3つに分類し、それぞれ数例を試作開発の具体的な取り組み方とともに紹介します。完成した椅子に隠された職人の熟考、判断、技術の痕跡が垣間見られることでしょう。本展が、新たな角度から椅子の奥深さや魅力に触れることのできる機会となることを期待します。


●主な展示と見どころ


<新作、名作で見るモデラー・宮本さんの仕事>
2019年4月に発表されたばかりの佐藤卓氏デザインのソファ「SPRING」を試作品とともに紹介します。自然素材と伝統技術に拘った数年越しの企画で、カバーは初めて使用する鹿革張り。佐藤氏いわく、宮本さんの職人技を主役にした1脚です。その他、プロダクトデザイナーの梅田正徳氏の「月苑」、ザハ・ハディドの「Fluffy chair (フラッフィ-チェア)」(試作)の実資料をそれぞれ制作の背景とあわせて紹介します。


<修復の経験から日本の洋家具の変遷を知る>
宮本さんは徒弟時代から、修復の仕事を多くしてきました。高い技術を買われて迎賓館の改修工事(昭和49年落成)のような大仕事も経験します。このような経験から宮本さんは日本の洋家具草創期から今日に至る椅子作りの変遷にも精通するようになります。修復事例として、明治村から依頼された「竹塗蒔絵小椅子」を実資料で紹介します。進駐軍によって上からペンキが塗られたことが分かった一脚です。


<素材を探究する--BOSCO (ボスコ)シリーズの誕生>
伝統的な西洋の椅子作りに多く接してきた宮本さんにとって、その素材となる木はとても身近な存在です。宮本さんは個々の木の特性を伝えるために、ひとつのデザインで200種類ほどの木材の椅子をつくりました。これが「BOSCO」シリーズです。イタリア語で「森」を意味します。同一のデザインのため、それぞれの木肌の表情、木目の動きなどの違いが分かります。今回、その中から'オークの根'と'ブナ'の2種の木材によるBOSCOを展示します。


<座り心地を追求する--Mychair (マイチェア)の誕生>
これは「合う椅子がない」という小柄な奥様の一言がきっかけで生まれた椅子です。それぞれの体格に合うサイズで、その人なりの座り心地が追求された椅子は生産システムも計画されました。サイズは4段階、クッションにはスプリングと馬の毛や植物の繊維などの天然素材が使われています。カバーの布地も取り替えられる、まさに「Mychair」。会場では身長170cmの人用のLサイズを1脚展示します。座り心地をお試しください。


<指導者としての活動>
宮本さんは技術や知識の継承のため次世代の指導にも余念がありません。過去には学外ワークショップ「Mプロジェクト」を主宰。各美大から学生を選抜し、往年の椅子をリ・デザインするというものです。会場では第1回目(1990年)の参加者で現在デザイナーとして活躍する藤原敬介氏と米谷ひろし氏の体験を実資料とともに紹介します。現在進行形の「家具塾」は建築家とデザイナーとつくり手が一緒に考えるデザインの勉強会です。家具デザイナーの藤江和子さんが塾長を、宮本さんはスーパーバイザーを務めています。

会期 <大阪>2019年6月7日(金)~8月20日(火)
<東京>2019年9月5日(木)~11月23日(土)
開館時間 <大阪>10:00~17:00
<東京>10:00~18:00
休館日 <大阪>水曜日、8/13-16
<東京>水曜日
入場料 無料
企画 LIXILギャラリー企画委員会
制作 株式会社LIXIL
協力 五反田製作所グループ、埼玉県立近代美術館、博物館 明治村、藤原敬介、株式会社ワイス・ワイス
展示デザイン +建築設計 田代朋彦
展示グラフィック HORIdesign 堀 恭子

宮本茂紀 略歴

1937年東京都生まれ静岡県伊東市育ち。椅子張り職人・モデラー。戦後、椅子張り職人としての道を歩む。1966年に五反田製作所を創業し、国内外のトップデザイナー家具のライセンス生産を行う。日本初の家具モデラーとしてデザイナーの椅子から乗用車、電車のシートまで幅広く開発に関わる一方、迎賓館や明治村の洋家具の修復も請け負う。2007年黄綬褒章受章。 著書に『世界でいちばん優しい椅子』(光文社)、『原色インテリア木材ブック』(建築資料研究社)、『椅子づくり百年物語』(農文協)がある。


撮影:尾鷲陽介

  • 2019年4月にワイス・ワイスから発表された佐藤卓氏デザインのソファ「SPRING」。自然素材と伝統技術を用いた一生モノの家具がコンセプト。写真は、開発を担当した宮本茂紀さんがつくった最初の試作。
  • Fluffy Chairの試作。札幌にかつてあったイタリアンレストラン&バー「北倶楽部ムーンスーン」のため、内装を手がけた建築家ザハ・ハディド氏による椅子。W480×D530×H700(SH445)
  • 竹塗蒔絵小椅子。W430×D440×H873
  • BOSCO(オークの根)。W420×D550×H1100(SH450)
  • 丸太を競り落とす時に使ったハンマー状の道具。
  • 2019年4月にワイス・ワイスから発表された佐藤卓氏デザインのソファ「SPRING」。自然素材と伝統技術を用いた一生モノの家具がコンセプト。写真は、開発を担当した宮本茂紀さんがつくった最初の試作。
    製作・所蔵:五反田製作所グループ、撮影:尾鷲陽介
  • Fluffy Chairの試作。札幌にかつてあったイタリアンレストラン&バー「北倶楽部ムーンスーン」のため、内装を手がけた建築家ザハ・ハディド氏による椅子。W480×D530×H700(SH445)
    デザイン:ザハ・ハディド・アーキテクツ、 製作・所蔵:五反田製作所グループ、撮影:尾鷲陽介
  • 竹塗蒔絵小椅子。W430×D440×H873
    所蔵:博物館 明治村、撮影:尾鷲陽介
  • BOSCO(オークの根)。W420×D550×H1100(SH450)
    デザイン:宮本茂紀、所蔵・製造元:五反田製作所グループ、撮影:尾鷲陽介
  • 丸太を競り落とす時に使ったハンマー状の道具。
    所蔵:宮本茂紀、撮影:尾鷲陽介
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